软体怪盗

作者:qazplm1235869

《軟体怪盗リィンツリーの受難 金属フレーム拘束②》(作品 ID: 15426056)

作者:夜空さくら (pixiv ID: 1737959)

===== 第 1 页,共 1 页 =====

 黒猫怪盗リィンツリーは、その呼び名の通り、実にしなやかで見事な姿をしていた。

 全身黒のラバースーツに身を包み、尻尾飾りを閃かせながらまるで本物の猫のように屋上を疾走する。

 その動きはとても普通の人間が追いきれるようなものではなかった。

 ある資産家がパルクールを得意とする特別捕獲班を揃えたこともあったが、彼女は屈強な男たちの追撃を悉く振り切ってみせた。

 特殊な装備も使っていたのだろうが、垂直に聳える10メートル近い壁を正しく猫のように駆け上がり、呆然と見上げる追撃班を揶揄うように笑って姿を眩ませたのだった。

 そんな怪盗の存在を知った当初の私は、何らかのパフォーマンスの一種だろうと考え、最初は存在を信じていなかった。

 そもそも現代の世に怪盗という存在自体が似付かわしくない。

 それもマスクで顔を隠していてもなお、恵まれた容姿をしていることがわかるほど整った顔立ちで、体のラインから明らかに若い女性ということもわかるのだからなおさらだった。

 何らかの組織が何らかの目的を持って、話題を集めることを目的として作り出された存在である、と思う方が自然だ。

 本物の怪盗であるとは信じていなかったが、その黒猫を思わせる可愛らしくも美しい姿を見た私は、怪盗としてではなくても彼女が欲しくなり、秘密裏に彼女のことを調べた。

 その結果わかったのは、どうやらリィンツリーは本物の怪盗だという信じられない事実だった。

 彼女の行った怪盗行為のすべては、やらせでもなんでもなく、実力で成したことだった。

 その頃には私は彼女に夢中になっていた。

 何が何でも、絶対に彼女が欲しい、と――そう考えたのだ。

 そして今。

 怪盗リィンツリーは私の手の内にいる。

 金属の枷とそれらを繋ぐ棒によって、両腕は背中側で一本の棒のように固定されている。両手の指もそれぞれ輪と棒の合わせ技で限界まで開いた状態で左右の指が固定されているため、腕の動きは完全に封じられている形だ。

 普通の人間がそんな体勢を取らされれば、肩が外れそうな激痛でとても冷静にはいられないだろう。だが彼女は苦しそうな表情こそ浮かべているものの、特に痛がっている様子は見せていない。

(動きからもわかっていたが……やはり相当な軟体体質のようだな)

 その事実はますます私を喜ばせてくれる。彼女にどういう拘束を施すかは大体決めてはいたものの、その準備が無駄にならずに済みそうだ。

 嬉々として拘束を進める私に対し、彼女は相変わらず警戒心を剥き出しにした目を向けていた。

 オッドアイの両目が細められ、私のことを睨んでいる。

 そんな彼女の姿は、懐かない飼い猫が飼い主を睨んできているようにも見え、私を余計に興奮させた。

(ああ、本当に可愛らしいな君は……♡)

 睨んでいるはずなのに、私が余計に笑顔になることが理解できないのか、彼女の表情は若干引きつっていた。

 ドン引きされてしまうとは正直心外である。

(ふふふ……本当に、最高の逸材だ。早く、もっと色んな姿を見てみたいものだな……)

 快感に蕩けている顔だとか。蕩けた声で甘えてくる姿を想像すると、想像だけで心臓を鷲掴みにされそうだ。

 しかし、焦ってはいけない。

 多少遠回りになっても、慎重に、一歩ずつ彼女の身と心を掴み取ってあげなくては。

(……でないと、また逃げられるからな)

 私はこれまでの経験を踏まえ、そう思った。

 自画自賛になるが、事実として私は極めて優秀である。

 文武両道、容姿端麗。周りからは完全無欠な存在であると言われているし、実際ほとんどの人間よりはあらゆる面で優秀である自負もある。でなければ会長職などとても務められないし、業績を伸ばし続けることなど出来ない。

 だが、そんな私には唯一にして最大の弱点があった。

 否、悪癖というべきか。

 それは『愛情が深すぎる』ということだった。

 私はこれまでの人生で、何頭も――そして何人も――ペットを飼ってきた。

 抑えているつもりなのだが、私が構い倒して愛し倒してしまうため、普通のペットはとにかく逃げ出すし、そういう関係になった子たちにも暇を請われてしまい、泣く泣く手放したことが数知れない。

 まあ、着物を着るのが趣味だという娘に、二億円する着物をプレゼントしたのはやり過ぎだった。避暑地に遊びに行きたいと零した子に専用の別荘地をメイド付きで用意したのもやり過ぎだったかもしれない。

 執事には「妥当な相場もわからないんですか?」とばっさり切り捨てられてしまったものだ。正直解せぬがそれで実際に逃げられてしまったのだから、何も言い返せない。

 幸い、私の『人を気に入る嗅覚』は確かなようで、重すぎる愛を受け止めきれないと身を引く善良な者ばかりで、私の愛情を利用して贅沢三昧してやろう、という者はいまのところいなかった。

 私としては愛を受け入れていてくれるのであれば、いくらでも贅沢三昧させてあげてもいいし、それも愛情表現のうちのだが、世の中ままならぬものである。

 人の気持ちは金では手に入れられないものだ。

 閑話休題。

 これまでの子たちは私から離れていくのを涙を呑んで見送ったが、この怪盗リィンツリーは絶対に逃がしたくない。

 一度でも逃げられてしまえば、もう二度と捕まってはくれないだろう。

 私が彼女を捕まえられたのは、一度限りの反則技を用いたからだ。

 次の機会はない。今回で確実に彼女の身も心も私のものにする。

 そのために、私は入念な準備をしてきたのだ。

 私は次の拘束具を彼女に装着していく。その拘束具とは、金属で出来たブラジャーのようなものだった。

 ただし、それには輪郭しか存在せず、普通の下着のように乳房を覆う役には立たないものだ。

 それを彼女の胸に装着し、彼女の二の腕に取り付けてある枷と連結した。

「ふむ……君の胸はなかなか気品のある形と大きさでいいな」

 金属のブラジャーによって縁どられ、少し縊りだされる形になった彼女の乳房は、少し大きくなったように見える。ラバースーツを着ているから、露出度は全く変わっていないのだが、強調されたことで、いままでよりも少し卑猥に見えた。

 そのことは彼女自身もわかったのか、少し顔を赤くして恥じらっている。

 そもそもぴっちり体に張り付くラバースーツ姿とて、かなり恥ずかしい格好だと思うのだが、あくまでラバースーツ単体でなら仕事着という認識なのかもしれない。

「……っ、悪趣味、ですね……っ、これ、拘束に関係ありますか?」

 せめてもの抵抗なのか、そう問いかけてくる。

 私はそんないじらしい彼女の抵抗に思わず笑みが零れた。

「ふふっ……さあて、どうだろうな? まあ、後のお楽しみとしておけ。補助的な立ち位置ではあるが、大いに拘束に関わってくるさ」

 言いながら位置を調整し、しっかりと固定する。

 するとそのブラジャーはリィンツリーの胸に若干食い込む程度に彼女の体を締め付けていた。

 特に痛みは生じていないはずだが、少しでも大きく息を吸い込んで胸を膨らませようものなら、余計にブラジャーは深く食い込む。

「……ぅっ、ふーっ……」

 深く呼吸できなくなった彼女は、息を細く長く吐いて肺を縮ませ、浅くゆっくり吸うことでブラジャーが食い込まないようにしていた。

 その代わりに、というべきか、腕の拘束によって軽く仰け反って突き出すような形になっていた腹部が呼吸に合わせて少し膨らんでいた。

 基本がスレンダーな体つきだから、お腹が膨らんだりへっこんだりする様はよくわかった。ぴっちり張り付いたラバースーツも相成って、すごく魅力的な曲線を描いている。

 なるべくまだ彼女の体には『そういう意図』で触れないようにしようと思っていたが、そのお腹の曲線の魅力には抗えなかった。

 掌で彼女のお腹を撫でさする。

「ひゃんっ!?」

 なるべく優しく驚かせないように触れたつもりだったが、さすがに無反応とはいられなかったようだ。

 可愛らしい悲鳴に、思わずほっこりしてしまう。本人は情けない悲鳴をあげてしまったと感じているのか、耳まで真っ赤にしていた。

 次に取り付けるのは、金属で出来たショーツのような器具だ。

「次はこれを身に着けてもらう。ああ、特にそういう類の玩具はまだ仕込んでいないから、安心するといい。別に貞操帯というわけでもないし」

 こういう金属で出来た下着を取り付けるときには、内側にバイブや張り子といった突起物や、股間に接する位置、特にクリトリスに当たる位置にローターなどを仕込むのが鉄板だが、今回はそういった仕組みのない、本当にシンプルに金属で出来たショーツというようなものだった。

 ちなみに元々の彼女の装備はラバースーツだけで、中に下着こそ履いているが、下着のラインがラバースーツの表面に出ないようなものしか身に着けていなかった。

 その股間に金属のショーツを被せ、固定する。黒いラバースーツの上から被せたとはいえ、元々サイズはギリギリだったので、かなり食い込んでいるように見えた。

「変な、感覚ですね……これ……」

 股の下に当たる部分にも幅があるので、彼女は足をしっかり閉じることが出来ない。閉じると足で股間部分を挟むことになってしまい、落ち着かないのだろう。

 以前似たような拘束具を身に着けていた子が言っていたから間違いない。

 その金属のショーツは、さっき取り付けた胸部のブラジャーといくつかの棒で連結させることができた。

 小さく弧を描いており、彼女が体を逸らすのに合わせて曲がっている。

「……ッ」

 無意識に体を捻ろうとしたのだろう。だが、上下の金属ブラジャーとショーツが繋がっているため、体を捻ることは出来ない。

 どんどん自由を奪っていく。すでに彼女の腕と胴体はほとんど動かなくなっていた。

「さて、次だ。この台の上にうつ伏せで寝てもらおうか」

「…………」

 渋々、といった様子で彼女が台の上に体を横たえる。

 金属のブラジャーと台がぶつかり合って軽い音を立てた。

 腕の拘束などの影響で、うつ伏せに体を横たえるといっても、彼女は自然と体を逸らし、顔は真正面を向くようになっていた。

 投げ出されたすらりとした足を掴むと、まずはそれぞれの足首付近に金属の枷を取り付ける。二の腕に取り付けたのと同じ、機械式のものだ。

 その枷を取り付けた上で、その足を彼女の頭側へと引っ張っていく。

「え、ちょ……っ、んっ……!」

 シャチホコの如く反り返った彼女の体。

 足首の枷を二の腕に巻き付いている枷と連結し、逆エビ反り固めと似た体勢に整えた。本来の逆エビ反り固めと違って、さらにコンパクトなまとまり方だ。

「……っ、く、ぅ……ぅ!」

 さすがの彼女も取る体勢としてはかなりきついのか、呻き声がかなり苦し気だった。

 そんな彼女の反応を楽しみつつ、今回の拘束最後の仕上げを行う。

 彼女の体を拘束している金属の枷。

 二の腕と足首の枷の連結された部分に、天井から垂らした太い鎖を接続し、そして――天井のウインチを使って、彼女の体を持ち上げる。

「ん、ぎっ!? く、ぅぁあ……っ!!」

 彼女の体の各部を固定している拘束具に分散するとはいえ、自重によって彼女は全身を締め付けられるような感触を得ているはずだった。

 普通の人間がされれば泣き叫んで数秒と保たないであろう、かなり厳しい状態だ。

 と、いうか実際試しにやってもらった軟体自慢のメイドは、体が持ち上がった瞬間喉が裂けんばかりの凄まじい悲鳴をあげて悶絶し、気絶したほどだ。了承の上でやったことではあったが、数週間の有休を与えて労ったものだ。

 それくらい厳しいものだったが、さすがはリィンツリーというべきか、呻き声はあげつつも、まだ必死に耐えていた。とはいえ、彼女でも苦しい姿勢には変わりなく、眦に涙が浮かんでいる。

 耐えている彼女の気概に敬意を表し、私はその涙は見ていないことにした。

「……うむ……美しい。私の目に狂いはなかった」

 普通の人間ならとても取れないであろう、凄まじい拘束体勢。

 それを施されてもなお、彼女の気高さは少しも薄れてはいなかった。

 額に汗を掻きながらも、彼女は気上に私を睨んでくる。

「目に、狂いは……っ、なくとも……、気は、狂って、ます、よ……っ!」

「気が狂っているとは失敬な。……まあ、否定はできないか」

 私は彼女の肩に手を添えると、ほんの小さな力で彼女の体を押した。

 一本の鎖で空中に吊るされている彼女の体が押されればどうなるか。

――ギィ……ギシ、ミシ……ミシッ……

 当然、回転する。

「~~~~ッ!!!」

 全身から軋む音が響き、彼女は体をびくんびくんと痙攣させた。

 それがまた全身を軋ませ、それがまた揺れを呼び――無限ループが発生していた。

 滴るほどに汗を掻いている彼女の体から、水滴が頬を伝い、顎から滴って、台の上へと落ちる。

 その台を撤去してしまうと、彼女の体は私の目線の高さでゆっくりと揺れていた。

 観賞用としては実に素晴らしい出来栄えである。本人はたまったものではないだろうが。

「よし、これで今回の拘束は終了だ。半日おいて、君が拘束を解いて床に降りて居られたら君の勝ち。降りれていなければ私の勝ち。なお、ギブアップはいつでも認めるものとする。その時は私を呼ぶがいい」

 そう告げると、私は部屋の端に用意させておいた椅子に座り、彼女の姿を眺めながら休憩に入る。

「途中でこちらから手を出すことはない。抜け出しかけたのを改めて拘束するなんて無粋な真似はしないから安心して脱出に勤しんでくれ」

 とても抜け出せる余地などない拘束を施したつもりだが、あるいは現代の怪盗である彼女であれば脱出することも出来るかもしれない。

 それならそれで、素晴らしいことだ。

 どちらに転んでも私は存分に楽しめる。

 私は空中に吊るされた彼女の姿を見守り、非常に満ち足りていた。

 無論、拘束され吊るされている側の彼女は――余裕など1ミリもない様子だったが。

つづく

《軟体怪盗リィンツリーの受難 金属フレーム拘束③》(作品 ID: 15454704)

作者:夜空さくら (pixiv ID: 1737959)

===== 第 1 页,共 1 页 =====

 天井から吊るされ、空中に浮かぶリィンツリー。

 その姿は部屋のライトに照らされて陰影が強調され、とても神秘的な光景となっていた。

――ギシッ……ミシッ……ギギッ……

 鎖が鳴り、金属の軋む微かな音が静かに響く。

「……っ、ふっ……ん……ぅ……く、ぁ……!」

 静まり返った部屋に、彼女の呻き声が木霊する。

 いかに彼女が希代の怪盗として名を馳せているとはいえ、現状彼女の置かれている状況は、そんな彼女でも相当過酷なものだ。

 体中に取り付けられた金属の枷によって、窮屈な姿勢に固められている。

 その上で、天井から垂れ下がった鎖によって吊るされているのだから、過酷でないわけがない。

 幸いというべきか、金属の枷はそれぞれが連結されており、吊るされた彼女の体重を分散して請け負っている。

 そのため、腕や足だけでただ吊るされるよりは、彼女の体にかかる負荷は、はるかにマシな範疇で済んでいた。

 無論、それは鬱血や窒息などといった致命的な負荷にならないというだけで、窮屈に折り畳まれた姿勢で吊るされること自体、相当な苦痛を伴うことである。

 両腕をまっすぐ伸ばした状態で、背中側に回され、左右の腕が一本の棒になるように拘束が施されている。

 それも、手首と肘は完全に引っ付き、肩もほとんどくっつきそうなまでに寄せられているのだ。

 リィンツリーがそれを特技とするほどに軟体だからこそ耐えられているが、常人なら数秒も耐えられない姿勢であろう。

 さらに両足は逆エビ反りの形で、その二の腕を拘束している枷に連結する形で引っ張り上げられており、それも常人であれば悶え苦しむ体勢だった。

 リィンツリーはギリギリ耐えられてはいたが、かなり苦しい姿勢であることには違いない。

「ふ……っ、んん……っ、あ……うぁ……っ」

 苦しみに悶えるリィンツリーは、全身から滝のような汗を掻いていた。

 室温が特別高いわけではないのだが、慢性的に痛みを感じている彼女は、それを堪えようと必死に呼吸をしている。

 だが、胸部を抑えている金属で出来たブラジャーによって、今の彼女は深呼吸ができない。

 そのため浅く早い呼吸をしなければならず、その結果、心臓の鼓動が著しく速くなっていた。

 循環する血液によって彼女の体は活発に動こうとして、体温の上昇を招いてしまっているのだ。

 ほぼ全身を覆うラバースーツの存在もあり、体温が上がり続けてしまい、滝のような汗を掻くに至っていたのである。

 顎先から滴るほどに汗を掻いている彼女の様子を見ていた渡部亜希子は、そんな彼女の汗すらも美しいと言わんばかりの笑顔を浮かべていた。

 空中に吊り下げられ、呻きながらゆっくりと揺れるリィンツリーを、執事に用意させた紅茶を飲みながら眺める。

 至福の時と言わんばかりに、渡部は心からの笑みを浮かべていた。

「ふふっ……良い。実に良い」

 彼女は決してリィンツリーを苦しめるためにやっているのではない。

 愛しているから、飾って愛でたいと考えているのだ。

 普通の人間には――怪盗とはいえ、リィンツリーにも――全く理解できない感覚であったが。

 空中に吊るされたまま、小さく呻いているリィンツリーに、慈愛に満ちた視線を向けていた渡部亜希子は、ティーカップを机の上に戻し、立ち上がった。

 そして再びリィンツリーの傍にいくと、顎から垂れ落ちようとしていた彼女の涎を、指の腹で軽く拭う。

「ふふ……苦しいか? 降ろして欲しいのなら、いつでも降参していいぞ?」

 そう渡部は呼びかけたが、それでリィンツリーが頷くわけがないとほぼ確信していた。

 案の定、目にうっすら涙を浮かべつつも、リィンツリーは顔をぷいと横向け、ギブアップなどしない、と態度で示す。

 そんな彼女の反抗的な姿にも、渡部は上機嫌だった。

「うむ。それでこそ怪盗リィンツリーだ。気高き精神、実に素晴らしい」

 手放しで彼女を褒める渡部。

 簡単に折れないからこそ、手に入れがいがあるというものだった。

 渡部はリィンツリーの額に汗で張り付いた前髪を、指先で払ってあげた。

 はっきりと見えるようになった苦悶に歪む顔を堪能しつつ、渡部は至近距離からリィンツリーの肢体を舐めるように眺める。

 彼女の体を覆う黒いラバースーツは、通常のラバースーツと違い、光沢があまり感じられない。闇夜に紛れるためのものだ。

 ただ、それでもこれだけ明るい部屋の中でライトに照らされれば、ラバースーツ特有のテカリが十分感じられる。

 彼女の体のラインにぴったりと張り付いているそれは、リィンツリーの女性らしいボディラインを浮き彫りにしている。

 そこをさらに金属の拘束具が彩りを添え、体を強調するように締め付けているせいもあって、かなり蠱惑的な姿であると言えた。

 張り詰めたように膨らんでいる胸部が、リィンツリーの僅かな動きに反応してぷるんと、柔らかそうな動きで揺れる。それは見ている者が思わず触れたくなるような動きであった。

 視線を吸い寄せられた渡辺は、抗いがたい魅力を感じてその乳房に手を伸ばしかける。

 だが、すぐに手を止め、頭を振って気持ちを落ち着けた。

「ふぅ……危ない危ない。君があまりに魅力的で、つい触りそうになってしまった」

 渡部自身は、リィンツリーとてこのからは脱出不可能だと思っているが、一応まだ勝負の途中である。

 あるいはリィンツリーが拘束を抜け出すことが出来るかもしれず、その途中で彼女の体に触れて体力を消耗させるのは取り決めを違反することになってしまう。

 渡部は本気を出して長期的に調教すれば、確実にリィンツリーを堕とす自信はあったが、それで手に入るのはリィンツリーという名前の女の体だけだ。

 『怪盗リィンツリー』という存在そのものを手に入れるためには、手順が重要だった。

 ゆえに渡部は触れたくなる気持ちをぐっと堪え、リィンツリーから少し離れる。

「ここにいると触れたくなってしまうし、数時間席を外すとしよう。君も脱出に集中したいだろう?」

 その問いにリィンツリーは答えなかった。答える余裕もなかったというべきか。

 渡辺はそんな彼女の汗をもう一度優しく拭う。

「音声は聞いているから、ギブアップはいつでも受け付けるぞ」

 そう言い残した渡辺は、執事と共に部屋を後にした。

 部屋の中には空中に吊るされて微かに揺れる、怪盗リィンツリーだけが残されるのだった。

 気が狂っているとしか思えない趣味嗜好の渡部亜希子でしたが、勝負を成り立たせるつもりは一応でもあるらしく、私にはそれ以上何もしないまま、部屋を去って行きました。

 そのことで少し安堵した私は、ふぅ、と一つ息を吐き――力が抜けたせいか、一際強く金属の枷が私の体に食い込んできました。

――ギシッ! ミシッ、ギシィ……!

「ぎっ、ン、ギィ……! はァッ……はぁっ……!」

 慌てて体に力を込め、なんとか少し楽な状態を維持することができました

 それでもそもそもこの体勢自体が辛いので、あまり楽にはなりません。

 全身から吹き出した汗で、ラバースーツ内はじっとりと蒸れてしまっていて、かなり気持ちの悪い感覚でした。

(っ……これでも……一応、普通のラバースーツよりはマシなはず、なんですけどね……っ)

 特殊な素材と構造で出来ているこのラバースーツは、怪盗として動き回ることを考慮して作られた特注の物です。

 通気性が良く、汗が内部に溜まらないように出来ているのです。

 ですが、今は金属の枷が要所要所を締め付けているせいで、その特殊な構造による通気性がうまく発揮されない状態になっていました。

 体がほとんど動かせないから耐えられていますが、もし体が自由に動かせていたとしたら、ラバースーツの内部に溜まった汗のせいで動くたびに強く気持ち悪い感覚が生じていたはずです。

 それを味わう羽目にならなくてよかった、と言っていいのでしょうか。

(んぅ……! それに、しても……! こんなの、どうにかなるレベルじゃないですよ……!)

 少し体を動かそうとするだけで、窮屈に押し込められた関節が悲鳴を上げます。

 私だからこの程度で済んでいるだけで、もしも普通の人がこんな状態にされたら、脱出がどうこう以前に激痛のあまり泣き叫ぶばかりで何も考える余裕もなくなっていることでしょう。

 その厳しい拘束の具合を感じれば感じるほど、脱出ゲームを成り立たせる気が本当にあるのか怪しく思えてきます。

(とはいえ……その点に関しては彼女を信じるしかありません……っ)

 このまま成されるがままにされるというのも業腹な話です。

 少しでも脱出できないかどうか、私は自分の体と拘束具の具合を改めて感じ取っていくのでした。

(……まず腕は……これは完全に無理ですね)

 後ろ手に拘束されただけなら、いくらでも脱出する方法はありましたが、手首から先を厳重に拘束している物が絶対に外せないようになっています。

 そもそもテープで固定した上に指枷までつけるというのが、あまりにも徹底していました。

 せめて指と指の間を開いたり閉じたりできれば、それによって何かを挟むこともできますが、ここまで完璧に封じられていると、手は全く役に立ちません。

 縄なら爪先を擦り付けることで切断することも叶うかもしれませんが、金属には全くの無意味です。

(体は……こっちもほぼ動かせませんね……)

 胸部や腹部、股間を覆っている枷は私の体にしっかりフィットし、胸を逸らしてお腹を突き出すような体勢のまま、体を捻ることも許してくれませんでした。

 絶妙に体に食い込んでくる金属が体を軋ませ、乳房が絞り出されて震えている羞恥も相成って、かなり苦しい姿勢です。

 いつサイズを計ったのかはわかりませんが、私の体に隙間なくピッタリ張り付いて食い込んで来ていて、緩みも歪みもありません。

 少し大きく深く呼吸をすると、膨らんだ胸が金属の拘束に食い込み、痛みを発します。

(可能性があるとすれば……やはり足、でしょうか)

 足は逆エビ反りの形に持ち上げられ、二の腕に食い込んでいる枷に連結されて固定されていますが、そこくらいしか拘束されていません。

 足の指先は比較的自由なので、もし脱出の糸口を掴めるとしたら、そこしかありません。

 私は試しに足首を動かして、二の腕に食い込んでいる枷か、そこから繋がっている胸に食い込んでいるブラジャーのようなものが外せないかと試してみます。

 しかし、そもそも鍵穴もない枷は、恐らく電子制御で固定されているので、仮に手の指で弄ったとしても、到底動かせそうにない状態でした。もちろん、足の指で弄った程度で外れるような作りはしていません。

 私を吊るしている鎖ならどうにかして外せるかもしれませんが、空中に吊るされている以上、外れたら落ちてしまいます。

 そこまで高い位置に吊り下げられているわけではありませんが、受け身も取れない状態で落下すれば最悪命に関わります。

(うぅん……仮に足の拘束が外れても、ギリギリ足がつかないような高さですし……これは、参りましたね……)

 足の先で弄るだけで終わってしまいそうです。

 私は今回脱出するのは諦めることにしました。いずれ縄を使うと言っていたこともありますし、もっと脱出の可能性があるときを待った方が得策でしょう。

(ギブアップは……したくないですね……)

 体力の消耗を避けるという意味では、さっさとギブアップをしてこの状態から解放してもらうべきなのでしょうけど、なんとなく私はギブアップしてもこの状態からは抜け出せないと確信していました。

 渡部亜希子はある程度勝負を成り立たせる気はあるようですが、今回脱出の余地が全くない拘束を仕掛けてくるなど、私を手に入れるためには手段を択ばない様子も見せています。

 仮にギブアップしたとしたら、それを揶揄して私を追い詰めてくるのは容易に想像がつきましたし、心まで彼女に屈するわけにはいきません。

(ここはなるべく体力を温存して……耐えて……耐えて……っ)

 みしみし、と自分の体から不穏な音が響き、思わず呻いてしまいました。

 私は怪盗として特殊な訓練を積んできているので、長時間動かないで止まり続けたり、不自然な体勢を維持し続けたりすることには慣れています。

 かつては厳重な監視の目を潜り抜けるために、男性が抱えて運べる程度の小さなトランクケースに体を折り畳んで入ったこともあります。

 その時もかなり苦しかったですが、半日以上じっとしてやり過ごし、まんまとお宝を盗み出したものでした。

(だから今回だって……耐えきってみせます……!)

 渡部亜希子の思い通りにはさせない。

 そんな強い決意を私は固めていました。

 けれど私は――この責めの本当の辛さを、まだまだわかっていなかったのです。

つづく

《軟体怪盗リィンツリーの受難 金属フレーム拘束④》(作品 ID: 15469638)

作者:夜空さくら (pixiv ID: 1737959)

===== 第 1 页,共 1 页 =====

 渡部亜希子がふと壁にかけられた時計を見上げる。

「そろそろ頃合いか」

 そう執事に声をかけた彼女は、るんるんとまるで童のように上機嫌な様子で地下室へと向かった。

 わずか数時間の間に数多の資産を運用し、『リィンツリーに盗みに入られた資産家』という悪評をものともせずに利益をあげてみせたその悪魔的手腕からは想像も出来ない様子だ。

 そんな彼女の興味は、現在一人の存在だけに向かっている。片手間で並外れたことをやってのける彼女は、どこまでいっても天才であった。

 リィンツリーを捕らえた地下室の扉の前で、一瞬だけ立ち止まる。

「さて……脱出など決してできないはずだが……怪盗ならあるいは……?」

 もし脱出されていてもそれはそれで楽しいと言わんばかりの渡部に、彼女の気質をよく理解する執事はやれやれと溜息を吐いた。

 渡部が逸る気持ちを抑えながらその扉を開く。

 そしてその先には――

 渡部が退出したときと変わらぬところに、怪盗リィンツリーが吊り下げられていた。

 現代の怪盗である彼女であれば、自分の想像しない方法で脱出しえているかもしれない、という期待は裏切られた。

 そういう意味での失望感がないわけではなかったが、元々ゲームが成立しないレベルの厳重な拘束を施した自覚は渡部にもあった。

 むしろリィンツリーが魔法や異界の法則を使って――要するに言ってしまえば反則・ズルをして――活動をしていたわけではなく、あくまでこの世界のルールに従った上で、情報や技術などを駆使して怪盗行為を成し得ていたということがわかり、そういう意味での好感度はむしろあがる。

 そしてそれに加えて、現在のリィンツリーの姿は、十分渡部の心を掴むものだった。

 リィンツリーの姿を見た渡部は、思わず目を見開き、感動の声を上げる。

「おお……美しい……っ」

 吊るされたリィンツリーは、脱出のために出来る限り足掻いたようだった。

 大量に掻いた汗が全身から滴っており、特有の匂いを部屋中に漂わせている。

 火照って赤く染まった顔といい、脱力して気怠げに俯いている様子といい、渡部を興奮させる要素が備わっていた。

「ふ……、ぅ……っ、く、ぅ……っ」

 ギシギシと音を立てて体に金属の枷が食い込み、リィンツリーが苦し気に呻く。

 その呻き声にはもはや気力がなく、彼女の素のままの様子が露わになっていた。

 そんな彼女は、渡部が部屋に戻ってきたことに気付くと、微かに顔をあげ、その左右の色が違う瞳を向ける。

 身体的にはすっかり弱ってしまっているはずの彼女だったが、その瞳に宿る光はまだ死んではいなかった。

 渡部はその見事な輝きを宿す瞳を見て、思わず感極まった様子で息を吐く。

「ああ……やはり君は私の理想通りの存在だな……ふふ、ふふふふ……」

 理想の存在が目の前で、渡部の手によって捕らえられた状態でそこにいる。

 渡部はあまりの幸福な現状に、感極まっていた。

「……さて、まだ時間は半分ほど残っているが……どうだ? ギブアップするか?」

 リィンツリーに近づいた渡部は、至近距離から彼女の顔を覗き込むように顔を寄せた。

 すっかり脱力し、金属の枷が食い込むままになっているリィンツリーだったが、渡部のその問いに対しては明確に拒否を示し、そっぽを向く。

 その際、体が動いてしまい、ギシギシミシミシと音を立てた。

「んきゅ、っ、う……っ!」

 力なく呻くリィンツリー。体に力を込めれば楽にはなるが、すでに力を使い果たしている彼女は、楽になることもできなかった。

 ただミシミシと体が軋む音と共に、小さく呻いて苦しむだけだ。

 渡部はそんな彼女の様子を見ながら、その頑なな精神を褒め称える。

「そうこなくては! さすがは怪盗リィンツリーだ。うんうん。そう簡単にギブアップされては私としても楽しみがいがないしな……」

 まだまだリィンツリーが抵抗する姿を眺めていたいというのが、渡部の望みだった。そしてそれはリィンツリーがギブアップしなかったことで、叶えられる。

 とはいえ、である。

「このまま終わりまで放置というのも芸がな……いや、そもそも脱水症状で死んでしまうだろう。少し休憩を挟もうじゃないか」

 そういって渡部は執事に台を持ってこさせた。ちょうどリィンツリーの腰の高さになる台で、それによってリィンツリーは吊るされている以外の箇所で体重を支えることが出来る。

 ただ、両足を後ろに持ちあげられている関係上、その台につく場所は太腿の前面と、金属の貞操帯のようなものが覆う股間だった。

――ぐちゅり。

 リィンツリーと台が接した瞬間、そんな音がリィンツリーの体から聞こえてきた。

 ラバースーツ内に溜まった汗が音を立てたのである。その音を至近距離でハッキリと聞いていた彼女は、嬉々としてそのことを刺激する。

「ふふふ、ずいぶんとラバースーツの中は蒸れて……いや、濡れているようだな」

 その言い方は『リィンツリーの性器が濡れている』とも聞こえる。わかっていて渡部はからかっているのだ。

 無論実際には金属の貞操帯のようなものが覆っているのだから、ぐちゅりという音を立てたのは太腿あたりのラバースーツであり、リィンツリーの性器が濡れていることがわかるわけではない。そもそも貞操帯で覆われているからこそ、汗は他のラバースーツだけの部分よりよほど掻くため、濡れていないわけがないとも言える。

 しかしあえてそう指摘することによって、リィンツリーの羞恥心を掻き立て、その場所を意識させることに成功した。

「……っ、ん、ぁっ!」

 咄嗟に腰を動かしかけたリィンツリーは、現在台の上に乗せられているということを忘れていた。

 その結果、腰を動かそうとしてしまったことにより、むしろかえって台に腰を擦り付けるような動きをしてしまった。

「んぅぅっ……!」

 金属の貞操帯越しに刺激が走り、敏感になっていたリィンツリーは声を出してしまう。

「おやおや。そんなに刺激が欲しいのか?」

 からかう渡部に対し、顔を真っ赤にしたリィンツリーは慌てて声をあげる。

「……ちがっ、違いますっ。あ、汗が、溜まってっ、気持ち悪いだけです!」

 ガラガラの声でそう叫ぶ彼女。

 実際彼女のラバースーツの内側は流した汗でぐちょぐちょに濡れており、相当気持ち悪い状態である。

 リィンツリーの言葉を聞いた渡部は、それを待っていたとばかりにニヤリと笑う。

「汗に塗れた状態のまま放置し続けると、皮膚がふやけて悲惨なことになりかねないしな……あとでそのラバースーツは脱がしてあげよう」

「……っ」

 リィンツリーはそれも拒否しかけて、言葉を飲み込んだ。

 いくらリィンツリーの着ているラバースーツが特注のものであるとはいえ、一生脱がずに過ごすことが出来るような代物ではない。

 渡部の言う通り、いつか脱がされることは覚悟していたのだ。

 だがそれについてあまり抵抗する気持ちを見せると、かえって渡部を喜ばせてしまうのではないかとリィンツリーは考え、あえて言及しないでおいた。

「ふふっ、安心しろ。そのスーツはいわば仕事着だろう? 破いたり傷つけたりすることはしない。丁重にメンテナンスもして保存しておいてやるぞ」

 渡部はそういいつつ、真っ白いバスタオルのようなものを取り出すと、リィンツリーの頭にそれを被せ、大量の汗でシャワーを浴びたような状態になっている彼女の髪を拭き始めた。

 頭の上に乗っていたリィンツリーの衣装の一つである猫耳は丁重に取り外して、机の上に置く。

「ああ、ちなみに君が元々つけていたものはすでに預かっている。あれを付けたままだと、簡単に脱出されてしまうからな」

「……道理で、目が覚めてすぐに脱出しようとしても、出来なかったわけです」

 リィンツリーの猫耳や尻尾飾りは、酔狂で着けているわけではない。特徴的な姿の印象を強めることで逃走しやすくする意図がないわけではないが、実のところ猫耳と尻尾飾りには様々な怪盗行為を遂行する上での機能が備わっていた。

 しかし現在彼女に装着されているものは、本物と限りなく似ていたが、そういった機能を持たない、本当にただの飾りになっていた。

「そんなそっくりなものがなんで……いえ、愚問でしたね」

 リィンツリーを捕まえようと画策していた渡部が、似たようなものを用意していても、なんら不思議はないのだから。

「ふふふ。面倒な説明をしなくて済むのはありがたい。さて、こんなものかな。仕上げに、っと」

 丁寧に拭いていた手つきを一変させ、渡部はリィンツリーの頭をタオルで包むようにしてガシガシと拭き始めた。

「んびゃっ!?」

 思わず声をあげて驚くリィンツリーに構わず、渡部は本当の猫にやるようにタオルを動かし――しっかり水気が拭き取れたのを確認して、タオルを離す。

 髪がぼさぼさになったリィンツリーが、ポカンとした顔をしていた。

 それはまさにお風呂に入れられた風呂嫌いのペットが放心しているような表情で、渡部は思わずにやけてしまうのを止められなかった。

「くふっ、くふふ……! 愛い。とても愛いぞ、リィンツリーくん……!」

 掌でリィンツリーの頭を優しく撫でる渡部。

 リィンツリーはしばらくポカンとしていたが、非常に不満そうな顔になってそっぽを向いた。

「あんまり撫でないでください。気持ち悪いです」

 リィンツリーのつれないツンとした態度も、渡部は全く気にしなかった。

 むしろ猫っぽくてとてもいい、とばかりにニコニコ笑顔を浮かべている。

 櫛を使ってぼさぼさになったリィンツリーの髪を丁寧に整え、新しい猫耳を頭の上に乗せる。

「ふむ。それにしても若いというのは羨ましいな。化粧も何もせずこの顔立ちとは……いや、若いだけではないか。君が魅力的だからだな」

 まじまじと至近距離から見つめられ、リィンツリーは嫌そうに顔を顰めた。

「……年齢詐称疑惑のある人に言われたくないですけど」

「何をいう。私の完全に装いと気合の結晶だ。すっぴんになったら見分けがつかないかもしれないぞ」

 そういう渡部であったが、実際のところ彼女もほとんど化粧っ気はなく、すっぴんでもほとんど外見が変わらない。

 年齢を考えれば、年若いリィンツリーよりもよほど浮世離れしているのであった。

 とはいえ、執事に言わせればジャンルこそ違え、ふたりとも十分並外れた容姿の持ち主なのだが。

 渡部が道具を用意していた棚から一本のドリンクを取り出す。

「さあ、あとは水分補給だな。零さないようにしっかり飲むんだぞ」

 喉の渇きは耐えがたいものがあったのか、ドリンクの飲み口を口元に宛がわれたリィンツリーは、大人しくそのドリンクを口にする。

 ごくごく、とリィンツリーの喉が必死になってドリンクを嚥下していた。

「……っ、しょっぱ……い……」

 ドリンクを飲み干したリィンツリーが最初に呟いたのは、そんな言葉だった。顔を顰めて、いかにも不味そうな表情を浮かべている。

「しょっぱいのは苦手だったか? 次からは甘く感じるようにフレーバーを調整するか……」

 空になったドリンクを片手に、渡部はぶつぶつと呟く。

 そんな彼女に、リィンツリーは非常に胡乱げな目を向けていた。

「そんなの、どうでもいいですから。用事が済んだのなら、出てい、っ……?」

 突如、リィンツリーが戸惑ったように声を詰まらせる。

 胸を締め付けている枷のことがあり、浅い呼吸を心掛けていたはずのリィンツリーの呼吸が荒くなっていた。

「うん。やはり適度に乾いた状態からだと、吸収も早いな」

「なに、を……っ、むがっ!?」

 問いかけたリィンツリーの口に、真っ赤なボールが――ボールギャグというものが押し込まれた。

 渡部は素早くそのボールギャグのベルトをリィンツリーの後頭部で締めると、そのまま固定してしまう。

「んぐっ、んぅっ……!」

 口が開きっぱなしになってしまい、リィンツリーが声にならない声で呻く。

「ギブアップはしないだろうから、口も塞がせてもらうぞ。この方が君も存分に悶えられていいだろう」

「んぅ……っ! んっ、なあっ……!」

 抗議しようとしたのか、何か言おうとしたリィンツリーだったが、口元から涎が落ちそうになり、慌てて上を向いた。無論そんなことをしても開きっぱなしになった口はそのままなのだから、いずれ限界はくるのだが、それでも簡単にダラダラと涎を垂らすのは、リィンツリーのプライドが許さない。

 そんなリィンツリーの抵抗を堪能しつつ、渡部は再びリィンツリーの体を吊り下げ、台を撤去してしまう。

 そして、より過酷な事実を告げる。

「苦しいだけでは楽しくなかろうと思ってな……先ほどのドリンクの中には、快感を倍増させる薬を混ぜておいた」

「んごぅっ!?」

「ああ、別に常習性のあるような薬ではないから安心しろ。ただ、体の疼きはこれまで以上に高まるだろうから、楽しむといい」

 その渡部の言葉に嘘はなく、リィンツリーは自分の体の内側から、どうしようもなく官能のもどかしい熱が湧き上がるのを感じていた。

つづく

Last updated